REPORT-4-4

Report – 4

韓国における身体的技法について

Team D : 鬼束実里 木田夕菜 水溜友希 野間口夕琳

(5)調査5日目(8月29日)


● 最終発表

この日は、今回の実習における最終発表が行われた。私達は、この調査期間で調べたことをパワーポイントにまとめ、発表を行った。
内容としては調査期間にどこへ行き何をしたか、どこでどんな身体技法をキャッチしたかを明記した。発表後に先生方から、「身体技法かどうかきわどいものもある」「教会での身体技法は必ずしも韓国だからそういうものというわけではない」「身体技法か否かの仕分けが必要」というようなご指摘をいただいた。
ただ単に自分達が目に付いたことだけを羅列していたので、そう言われて当然であった。日本に帰ってからはその作業に追われることであろうとその時考えた。

(6)観察できた身体的技法(場面別)

ここで改めて今回観察できた身体技法をまとめてみたい。

<飲酒時>

・目上の人が入店してきた時は、下の立場の人達は起立して挨拶、目上の人が帰るときは、出口まで見送りに行って挨拶。
・お酒を注いでもらう時は、両手でグラスを持ち、飲み口を傾ける。
・乾杯の時は目上の人よりもグラスを下げて乾杯する。
・お酒を飲む時は、目上の人に見せないように手で口元を隠して少し背を向けるようにして飲む。

△図 11 お酒を飲む際に手で口元を隠しながら飲む様子

・男性は乾杯の後は一気に飲み干さなくてはいけない。
・目上の人の居る席まで立場の低い人は挨拶へ行く。
・初対面の人に対しては生まれた年(西暦)を聞く。
・誕生日の人はお祝いとしてグラスに食べ物や飲み物を混ぜたものを飲み干す。

<食事の席>

・お皿を持たずに食べる。
・お箸やスプーンなどは皿の上ではなく、テーブルの上に置く。
・お箸やスプーンを渡す時は、片手を肘に添えて渡す。
・スープ類も器を持たずに、スプーンですくって飲む。

<教会 プロテスタント系>

・牧師さんは左手にマイクを持ち、右手で時に激しく身振りをしながら熱弁。
・胸に手を当て、目をつむり呟きながら涙を流す(神へ助けを求めている)。
・「来てくれてありがとう」で笑顔になり、その後すぐ真剣な表情になった。

<納骨堂、お墓>

・親族が亡くなった場合は、男性が右腕に輪っかの印を付ける。
 線2つ→息子
線1つ→孫

△図 12 故人の息子がする印

△図 13 故人の孫がする印

・お墓参りから帰る時、供えた物は捨てる(食べる家族も居る)。
・箸で地面などを3回叩いて食べ物をお供えすることで、亡くなった人が食べるための合図になる。

<家庭(ジウォンさん宅)>

・初めて訪れる人の家へは靴下を履いてあがらないと無礼。
・男女ともにあぐら(女性は女性座りも)。
・「足を崩して下さい」「どうぞ食べて下さい」というように、言われてから訪問した人は行動に移す。
・ジウォンさんのお父さん(現在50代)が子供の頃は家族の間でも敬語を使う家庭が多かったが、今ではその考えは薄れてきている。
・ご飯を食べるときはお父さんが料理に手を付けてから食べ始める。
・お父さんが出勤する時は玄関先のエレベーターまで見送り、帰宅した時は玄関まで見送りに行く(家庭で差はあり)。
・お母さんはお父さんの左後ろに座っていた。

<その他(観光地や街中)>

・カップルは基本的に外では手をつないだり、肩を組んだりして歩いている。
・同姓同士や家族同士でも手をつないだり、肩を組んだりしてあるいている。
・空港にて、彼氏(夫?)が帰ってきた彼女(妻?)に対して花束を贈っていた。
・店員の態度が日本と比べるとあまり良くない。
・携帯電話の通知音が大きい。
・年下の人から先に握手を求めてはいけない。
・否定の身振りが日本では手のひらを横に向けて振る動作だが、韓国では手のひらを正面に向けて振る動作。
・自分のことを指す時に手のひらを胸に当てる。

5. 考察

私達D班は、身体的技法をしぐさ(標準)、身振り(例示子)に分類することを目的としていた。以下、観察できた身体的技法の分類と動作の方向性(【  】内に示す)である。

● しぐさ (標準)

・目上の人が入店してきた時は、下の立場の人たちは起立して挨拶、目上の人が帰る時は、出口まで見送りに行って挨拶。【他者】
・お酒を注いでもらう時は、両手でグラスを持ち、飲み口を傾ける。【他者】
・乾杯の時は目上の人よりもグラスを下げて乾杯する。【他者】
・お酒を飲む時は、目上の人に見せないように手で口元を隠して少し背を向けるようにして飲む。【他者】
・男性は乾杯の後は一気に飲み干さなくてはいけない。【他者】
・目上の人の居る席まで立場の低い人は挨拶へ行く。【他者】
・お箸やスプーンを渡すときは、片手を肘に添えて渡す。【他者】
・箸で地面などを3回叩いて食べ物をお供えすることで、亡くなった人が食べるための合図になる。【他者】
・初めて訪れる人の家へは靴下を履いてあがらないと無礼。【他者】
・「足を崩して下さい」「どうぞ食べて下さい」というように、言われてから訪問した人は行動に移す。【他者】
・ご飯を食べる時はお父さんが料理に手を付けてから食べ始める。【他者】
・お父さんが出勤する時は玄関先のエレベーターまで見送り、帰宅した時は玄関まで見送りに行く(家庭で差はあり)。【他者】
・カップルは基本的に外では手をつないだり、肩を組んだりして歩いている。【相互】
・同姓同士や家族同士でも手をつないだり、肩を組んだりして歩いている。【相互】
・空港にて、彼氏(夫?)が帰ってきた彼女(妻?)に対して花束を贈っていた。【他者】
・年下の人から先に握手を求めてはいけない。【他者】
以上16個確認。

● 身振り (例示子)

・牧師さんは左手にマイクを持ち、右手で時に激しく身振りをしながら熱弁。【他者】
・胸に手を当て、目をつむり呟きながら涙を流す(神へ助けを求めている)。【他者(神)】
・否定の身振りが日本では手のひらを横に向けて振る動作だが、韓国では手のひらを正面に向けて振る動作。【他者】
・自分のことを指す時に手のひらを胸に当てる。【自己】
以上4個確認。

● 例外

・初対面の人に対しては生まれた年(西暦)を聞く。
・誕生日の人はお祝いとしてグラスに食べ物や飲み物を混ぜたものを飲み干す。
→日本に帰国後、キムさんに確認。韓国の若者文化の1つ。
・お皿を持たずに食べる。
・お箸やスプーンなどは皿の上ではなく、テーブルの上に置く。
・スープ類も器を持たずに、スプーンですくって飲む。
・親族が亡くなった場合は、男性が右腕に輪っかの印を付ける。
・お墓参りから帰る時、供えた物は捨てる(食べる家族も居る)。
→韓国には亡くなった人への供え物を、正月やお盆に家族揃って食べる「飲福」という文化がある。しかし、今回確認したものはそれには含まれない。
・男女ともにあぐら(女性は女性座りも)。
・ジウォンさんのお父さん(現在50代)が子供の頃は家族の間でも敬語を使う家庭が多かったが、今ではその考えは薄れてきている。
・店員の態度が日本と比べるとあまり良くない。

6. まとめ

分類した結果、身振りとしぐさでは、しぐさの方がより多く確認できたことが分かった。身振りはあくまでも会話の意味の補足に過ぎないため、日本人というフィルターを通して観察している私達にとっては、観察することがあまりできなかったとも分析する。一方のしぐさに関しては、それだけで意味をはっきりと持つ動作であるため、私達の目に付きやすく、多数確認できたように考えている。
今回の調査では、飲酒や食事の場面において観察される身体技法が多く、特に、韓国人学生からイム先生へという、目上の人に対しての動作が顕著だったように思われた。これは、呑みの席や食事が他の場面に比べ、相手との関係性を築きやすい場面であり、仲を深める上で重要な役割を果たしていることを意味していると考えられる。実際、実習期間中において、私達が現地学生と互いの距離を縮めることができたのは、全員揃う夕食や、連日の吞みの席でのコミュケーションによるものだと感じている。
また、観察した身体技法(しぐさ)の持つ意味について次のように考える。本来は、相手への敬意や感謝の気持ちを表し、その動作を行うことで相手が自分に抱く印象や関係を良いものにする意味を持っていた。この段階では、その動作をしないことに対してはマイナスにはたらくことはなく、することによりプラスにはたらくだけであった。しかし、その動作を行う人が増加し、その動作が珍しいものではなくなった結果、動作を行わないことで相手に失礼だと思われ、自分への印象や関係が悪い方にはたらくようになる。このとき、その動作がマナーと認識されるのである。つまり、身体技法には、動作によって、マナーのいう概念を持ち合わせている場合があると言える。
ただし、「お皿を持たずに食べる」といった、もともとマナーやしきたりに分類されるものもあるように認識している。

7. 後輩へのアドバイス

今回の韓国実習を終えるまで、私は、果たして観察調査で十分な量の調査結果が得られるものか不安であった。アンケート調査などの他の方法を取れば、具体的な数値として調査結果を残すことができるのはと感じることも少なくなかった。しかし、今回の身体技法という自然な人々の動作を確認するためには、この観察調査という形が最も適していたと調査を終えて実感できた。現場に訪れて初めて分かった、調査場所の設定や観察方法の問題に柔軟に対応できたのは、この観察調査という形をとっていたからだと分析する。決まった形式に捉われず、自由度の高い調査方法だったからこそ、現地での調査スケジュールの変更も速やかに行えた。今回の経験をもって、今後、韓国での調査を控えるみなさんには、調査テーマに適した調査方法の選択をお勧めしたい。
そして、現地調査においては情報を共有することの重要性を伝えたい。あくまでも今回は私たち日本学生の調査であるために、私たち自身で調査を進めていかなければならず、現地の案内や日本語への通訳など、韓国人学生に頼ってしまう部分は多くあった。現地学生に対して依存しすぎているのではないかという気持ちを感じながらではあったが、自分たちの調査に必要としていることや進捗状況を詳しく正直に伝達することで、「〜してみてはどうですか」「〜もありますよ」との提案を受けて、調査場所やアプローチの仕方を当初の計画より随分広げることができたように思う。実際、教えてもらった納骨堂や教会での調査の他、ジウォンさんのお家にまで伺い、様々な場面における身体技法の観察が行えた。協力していただけることに感謝しつつ、互いが調査を理解するよう努めることも必要ではないだろうか。
また、移動中や食事中といった調査とは直接関係のない時間においても、現地の学生たちと多くの会話を交わすことで、自分の趣味や学生生活から日韓文化の違いにまで深く知ることができた。「調査への協力をしてもらう」関係だけではなく、同じ時間を過ごした「友人」として私は仲を深められたと感じている。せっかくの素敵な出会いの場を大切に、この韓国実習に取り組んでもらえたらと思う。(木田)

私達D班は、度重なる研究テーマの変更により調査計画がなかなか進まなかった。しかし、事前調査や文献調査をしっかりと行ったために、韓国調査での不安を少なくできたと感じる。このように、自分達のテーマが決まったらきちんと文献調査や事前調査を行うことは大切である。調査までに何度テーマや調査方法を修正できるかが鍵になっている。
他の班とは違い、私達は目視によって観察を行った。インタビューやアンケートを用いらないことで、調査結果がきちんと得られるのかが不安要素であった。しかし目視は、注意深く周りを観察しておかなければならないので、韓国の文化や人々の暮らしについて、他の班よりも様々なことに気づけたのではないかと考える。韓国での調査方法に多少の不安があっても、実際には多くを得られる可能性もある。無難を選ばずチャレンジしてみてほしい。
また、韓国では現地の学生にとてもお世話になる。そのご家族や友人などにもお世話になるので、折り紙などの日本のお土産を持参すると感謝の気持ちが伝わりやすいだろう。 せっかくの海外なので楽しんで実習を行って欲しい。日本では得難いものを得ることができる。とてもいい経験になることだろう。
最後に、某コンビニエンスストアに売ってある、蒙古タンメンを特別辛くないと感じる辛党の人へ。韓国の辛いものはそんなに辛くなかった。あまり期待しないように。(鬼束)

僕は今回韓国実習に参加して本当に良かったと思っています。韓国に行くまでは不安要素が多かったですが、いざ行ってみると学べることも多く、楽しいことも多いです。
ただ日本での事前調査をどれだけ入念にしても、韓国という日本とは言語も文化も違う土地で必ずしも順調に調査が進むとは思わない方がいいです。予想しない事が起こり、それに臨機応変に対応する術を磨くのが実習の醍醐味であり、意義であると思います。
もちろん、入念な準備の末に調査が順調に進み、無事に終わるに越したことは無いと思いますし、それが一番だと思います。しかし、つらい思いをしてほしいですね。
僕たちD班の報告書は他の班に比べて少しだけ文量が多く、一見関係ないことをつらつら書いているように見えるかもしれません。でも、そういう部分も含めて僕らは紆余曲折として実習の過程を事細かに書させてもらっています。そういう経緯を大切にしたいのです。
よって実習に参加する方々は、先生方からも言われると思いますが、その時々で思ったことや考えたことを逐一メモに書き留めることをおすすめします。(水溜)

今回の韓国実習では、テーマ決め、事前調査、事前準備、現地調査それぞれでいろいろな困難があった。そんな困難があった時は、先生や韓国人留学生などに頼ってほしい。私達は今回何か困ったことや不安なことがあったら、先生や韓国人留学生に質問に行き、助言をいただいていた。先生方や韓国人留学生の方々は、本当に親身になって話を聞いてくれ、そして、ためになる助言をいただけた。このおかげで、現地調査がスムーズに進んだのだと思う。私達が事前準備として、観察調査を行うことに決めたのは、直接先生に質問に行ったときだった。この事前準備がなかったら、観察調査の難しさを感じることなく、現地に行っていただろう。
しかし、現地では、どれだけ入念に事前準備をしていても、予定とは異なることがでてくるだろう。そのようなときは、班員や韓国人学生とじっくりと話し合い、自分たちの目的に合った変更を行った方が良い。変更を行うことで、より良い方向に進むことも多い。海外である韓国という難しさも多くあるだろうが、楽しみながら頑張って欲しい。
また、現地では、韓国人学生の方々とたくさん話したほうが良い。そうすることで、見ても分からなかった韓国の文化や、日本の文化についても気づくことができるだろう。そして、韓国人学生と仲良くなることで、より充実して楽しい実習になるだろう。(野間口)

8.参考文献一覧

ゴーシュ(編) 2015 『ニッポンのトリセツ 外国人向け日本観光ガイドブックには何が書かれているのか』 立東舎。
佐藤貢悦・斎藤智文・厳錫仁 2015 『日中韓マナー・慣習基本辞典』 勉成出版。
菅原和孝・野村雅一(編) 1996 「叢書・身体とコミュニケーション」2 『コミュニケーションとしての文化』 pp.12-13 大修館書店。
常光徹 1948 『しぐさの民俗学 呪術世界と心性』 ミネルヴァ書房。
船曳建夫・山下晋司(編) 2008 『文化人類学キーワード【改訂版】』pp.70 有斐閣。