REPORT-5-2

Report – 5

韓国の大学生にとってのアルバイトの認識
~鹿児島大学と全北大学を例に~

Team E
鹿児島大学 : 鮫島司 千々和駿 長濵心 針原康平
全北大学 : オムテヤン キムジヨン クヨンジン
チョンダヨン パクスジン

3.韓国での調査過程

(1)調査1日目(8月25日)

昼頃に仁川国際空港に着いた。空港に着くなり班員で手分けをして、空港内の販売物を手あたり次第撮っていった。私たちのテーマである「アルバイト」には物価が深く関連していると考えられるからである。このとき両替した1万円が95,000ウォンとなったので、1ウォンが0.1円ほどだということになる。
調査という名目のもと空港で数時間満喫した後、高速バスに乗って全州まで移動した。高層ビル群が所々に立ち並んでいたり、ものすごく大きな建物が建設中だったりと街の発展がバスの中からでも十分なほど伝わってきた。3〜4時間ほどバスで移動し、全州駅近くのバスターミナルに到着した後はタクシーで大学のゲストハウスまで移動したが、5キロほどの道のりで5,000ウォン(500円)であった。
想像以上に豪華なゲストハウスでくつろぐ間もなく、大学近くの焼き肉店へ夕食を食べに行った。そこで今回我々と行動を共にする日本語学専攻の学生さんたちと顔合わせを行った。20人ほどの韓国人学生たちと、豚肉をキムチやコチュジャンと一緒に食べたが非常においしかった。食事を共にするということは、初対面同士で打ち解ける有効な手段である。初めは何を話せばよいのか緊張していた我々だが、すぐに同じテーブルの学生たちと打ち解けることができた。なぜ日本語を専攻したのかと尋ねるとそれぞれ違った答えが返ってくるのだが、日本のドラマ、アニメ、マンガが好きだと答える人が多いように感じた。むこうは日本に興味があって日本語を専攻しているのだろう。そうなると我々も韓国について多少は詳しくなってから渡航すべきだったなと、彼らと話していて自分の無知を痛感した。
楽しい夕食が終わってからは、ともに行動してくれる韓国人学生たちとカフェで会議をした。こちらではいくつものカフェが夜遅くまで開いている。我がE班の韓国人学生は、男性がオムテヤンさん1人に女性が4人。皆バイトをしているという。今のところの調査計画を伝え、オムテヤンさんがそれを同時通訳して女性陣に伝える。アンケートと物価調査をしたいと伝えると、どこに行って物価調査をし、どこでアンケートを取ればいいかなど、具体的な明日からの予定を決めてくれた。さらには「アンケートだけでは実情を測りにくいと思うから、実際にアルバイトをしている様子を観察した方がいい。他にも、アルバイトにかかわっている様々な人、例えば親や上司、アルバイトの同僚や客なんかとの関係についてインタビューをしてみるといいのではないか」とのアドバイスをいただいた。同時翻訳に予定の取り付け、更には明確なアドバイス。オムテヤンさんがいなければ我々の調査の進捗は大きく遅れることになったのではないだろうか。話し合った結果、アンケートや物価調査と同時並行で、明日以降の調査でアルバイトをしている学生へのインタビュー内容を考え、実際に行おうということで話がまとまった。

(2)調査2日目(8月26日)

朝から激辛のカップ麺を食べるべきではなかった。しかもゲストハウス内の調理器具がレンジしか使えず、温める時間も十分にはなかったのでぬるいパリパリのカップ麺であった。韓国でも朝食は優しいものを食べるべきだし、無理して食べる必要もない。
昼前にはマクドナルドに、物価調査とアルバイトの様子を観察に出かけた。しかもここで我が班のパクスジンさんがアルバイトをしているので、アンケートを配ってもらえるように頼むこともできた。マクドナルドの「ハンバーガー(商品名)」は日本でも売られているので物価の調査対象として適当であると考え、頼んでみた。パリパリ激辛カップ麺のお口直しでもある。2,000ウォン(200円)ほどであり、日本の「ハンバーガー」の倍額であったが、よく見るとプルコギバーガーであった。「ハンバーガー」に相当するものは韓国にはなく、代わりにプルコギバーガーが出てくるのである。調査対象としては不適当であった。対応してくれたクルーは若い女性であった。恐らく大学生であろう。
プルコギバーガーを食べながら9人で席に座り、アルバイトをしている学生へのインタビュー内容について話し合った。一方でお客さんが来たら従業員を凝視するという、我々は少し怪しい団体客となっていた。
昼頃にマクドナルドを出てトッポッキ鍋の店に入った。食べ放題で6,900ウォン(690円)。トッポッキというものを初めて食べたが、その他の食材も含めて非常においしかった。
昼からは手分けをして、学内でアルバイトをしている学生へのインタビューと大学生へのアンケートを同時並行で行った。インタビューに応じてくれたのはいずれもオムテヤンさんの友人である。彼には本当に頭が上がらない。アルバイトをしている学生へのインタビューの内容とその回答は次のページのとおりである。

<インタビュー調査の内容と結果>

対象:全州大学の4人。便宜上A,B,C,Dさんとする。
調査日:8月28日

Q1.現在のアルバイト先と、続けている期間
A:マクドナルド、6か月
B:洋服屋(チェーン店)、4か月
C:パン屋、2か月
D:食堂、4か月

Q2. どんなことがあったときに一番やめたいと思うか
A:サボっているのが店長に見つかって仕事をさせられるとき
B:遅刻して仲間たちに申し訳なく思ったとき
C:店長が怒ったとき
D:体が疲れた時

Q3. 雇用主との関係は良いか悪いか
A:一緒にご飯を食べる時もあるほど関係は良好
B:家族のように接してくれる
C:雇用主とあまり会うことがない
D:まじめに働いているので、よく思われている

Q4. バイト先を決める際に決め手となるもの
A:店の雰囲気
B:自分が成長できる場所。自分の好みに合う場所。
C:都合の良い時間にシフトに入れること
D:スケジュール調整がしやすいこと

Q5. 自分が作業をしているときにお客さんが待っている状態をどう感じるか
A:早く行かなくてはと思う。すぐに終わる作業ならば先に終わらせてからお客さんの相手をする。
B:客が最優先
C:作業を終わらせてからお客さんの相手をする。
D:最初は仕事優先だったが、上司に言われてからお客さん優先になった。

Q6. お客さんが不親切な対応であれば、自分も不親切な対応でよいと思うか
A:客がどのような態度でも親切にすべき。
B:店からも指導されているが、いつでも親切に対応すべきだ。
C:不親切な人には不親切な態度でよい。
D:お金をもらうので親切な対応をしなくてはならないと思う。

Q7. 業務から外れた、利益を伴わないサービス(買い物をしない人にトイレを貸すなど)をする必要があると思うか
A:する必要はない
B:自分の接客態度が店のイメージになるし、その人がのちに買い物に来るかもしれない。だからサービスはする必要があると思う。
C:当然する必要があると思う。
D:ある程度のサービスならしてもよいと思う。

Q8. アルバイトをすることに対して親はどう思っているか
A:長期休みの時は構わないが、学期中は良く思っていない。
B:遊ぶお金は自分で稼ぐべきだと思っていて、勉強に差し障らないなら、してもよい。
C:してもよいと思っている。
D:学生なら勉強に励むべきなのでしてはいけない(Dさんは内緒でアルバイトをしているという)。

質問してみて分かったことは、韓国人学生は親から生活していくのに十分な金額と、それに加えて小遣いを仕送りしてもらっている人が多いことだ。Q8にもその傾向が表れているが、彼らの親は、我が子がアルバイトをすることを前提としてはいないのである。また、Q1~Q4までの質問では日本人学生も同じような回答をするだろうと思われたこともあり、日韓の差は感じられなかった。
しかし、Q6での回答には彼らの労働観に私たちとは異なる特徴が表れているようにも感じられる。それはつまり、「客とはどのような存在なのか」ということである。Q6と同様の質問を他の韓国人数人に尋ねてみたところ、Q6の質問に対しては「親切な人には親切を、無礼な人には無礼な態度で構わない」という意見が目立った。「お客様は神様だ」という言い回しが日本にはあるが、全員が全員ではないにせよ韓国には「商品やサービスを提供しているのだから、その代わりにお金をもらう」という、客と従業員は対等な関係であるという意識が文化的にあるのかもしれない。

(3)調査3日目(8月27日)

朝、クッパ(6,000ウォン)を食べた後に班をふたつに分けて、料理教室を経営しているオムテヤンさんの母へのインタビューと、大学生へのアンケート実施を同時並行で行った。
アンケート組に関しては韓国女性陣の奮闘によってかなりの成果が上がったようだ。一方でオムテヤンさんの母へのインタビューを実施してみて分かったが、ここではどうやら家族経営という形をとっており、雇うとしてもアルバイトではなく正規従業員としてのようなので、調査対象としては不適当だと考えここにはインタビュー結果を載せないことにする。
昼食には、ビビンバを食べた。全州の名物料理だというビビンバは値段がかなり高かった(10,000〜15,000ウォン)と記憶している。従業員の振る舞いもマクドナルドや他の飲食チェーン店に比べて礼儀正しく感じられ、高級店では従業員の振る舞いも変わってくるのだと思った。この「マクドナルドでは礼儀正しく感じられない」という感覚はどういうものかというと、例えば食器を片付けるときに大きな音を立てる、店の奥ではなく表のカウンターでトレイを拭く、テーブルを足で移動させる、客の食事スペースで柱にもたれかかってくつろぐなど、日本ではあまり見受けられない様子に対する感覚である。
こういった労働態度に関して韓国人はどう感じるのだろうかと興味がわき、テヤンさんに尋ねてみると「無礼だとは思うが誰も気にしない。これに文句を言う人がいたとしたら韓国では変な人だと思われる」と話していた。ここに日本人と韓国人の労働観の違いが表れているように感じられたため、我々はこれについて調査しても面白いのではないかと考えた。
午後は、全北大学の近くにある大型ショッピングセンターに行って物価調査を行った。アルバイトにより発生した給料で大学生がどんなものを買うことができるのかを調べるためだ。映画10,000ウォン(1,000円)、カラオケ1部屋1時間で5,000ウォン(500円・人数ではなく部屋料金のみかかる)など、日本と同じか若干安いくらいに感じられた。

(4)調査4日目(8月28日)

この日は中間発表会であった。E班は今までの調査の進捗状況、今後どのような調査を進めていくかについてである。それに対する先生方の批判は、「当初の目的である大学生のアルバイトに対する認識とはずれてきているので、今後調査をどういった方向に進めていくのか考えた方がよい」というものであった。これを踏まえて班員で会議をした結果、韓国で使える時間も限られており新たなテーマに変えるには時間が十分ではないと考え、原点回帰をしてアンケートを中心とした調査にしよう、という意見でまとまった。
そうと決まればアンケートの集計、分析を終わらせ、考察まで済ませなければならない。アンケートの集計・分析には想像以上に苦労した。なにせ質問項目が十数個あり、それらを90人分、テヤンさんに韓国語から訳してもらいながらの作業である。テヤンさんはE班で誰よりも貢献していると確信をもっていえる。あらかじめ韓国語に翻訳してもらっていたので、自由記述欄を業務内容に関するもののみにしていたのがせめてもの救いであった。
残り日数が少なくなってきたこともあり、夕飯では韓国人学生と日本人学生の交流も非常に活発になってきた。初対面の焼肉店ではぎこちなかったのが今では皆、夕飯の席が楽しくてしょうがないと言った様子である。しかし私たちは羽目を外すわけにはいかなかった。まだまだ集計も分析も終わってはいないからだ。夕飯後すぐにゲストハウスに戻り、結局作業は深夜3時まで続けられた。

(5)調査4日目(8月29日)

最終発表会はこの日の昼過ぎに行われることになっていたが、発表の直前になってあらぬことが発覚した。テヤンさんが見つけてくれたのだが、なんとアンケートを韓国語に翻訳してもらった際に質問内容が一つ消えてしまっているというのだ。それに際して夜通し考えた考察も白紙に戻ってしまった。
つまりどういうことかというと、日本語版では、「アルバイトをすることの目的」と「アルバイトで貯めたお金の使い道」という2つの質問があり、それぞれに7個ずつ選択肢があったのだが、翻訳時に「アルバイトで貯めたお金の使い道」の質問文と「アルバイトをすることの目的」の選択肢が消えていたのである。質問文は「アルバイトをすることの目的」であるが、その選択肢は「アルバイトで貯めたお金の使い道」のものとなり、異なる2つの質問が1つの質問になってしまったのである。さらに不幸なことに、2つの質問が似ていることもあって、質問文に対する選択肢が入れ替わったところでほとんど違和感がなかった。それゆえ、だれにも指摘されることなくこの時までそのままの状態であった。発表まであと数時間の出来事であった。取り急ぎ考察を組み立て直し、なんとか最終発表を乗り切った。
以上が韓国での調査過程である。帰国したのちにあらかじめ鹿児島大学の学生を対象に行っていたアンケートと比較、分析を行った。