REPORT-1

Report – 1

海外調査実習授業の概要

Team A : 竹下郁弥 菱川貴子 本嶋太貴

1.はじめに

私たちA班は、「日韓の大学生の就職」について調査を行った。今回の調査の目的は、日本と韓国の文系学生における就職活動の比較を行い、そこから学生の意識の違いとその背景となる社会構造について明らかにするためである。また、就職活動について調査することは、実際に私たちが就職活動を行う際にも役に立つだろうと考えたことも、このテーマを選択した理由のひとつである。
まず、前期の授業の間に、文献やインターネットを用いて事前調査を行い、日本と韓国の就職に関する情報をまとめた。そして、実際に韓国へ行き、現地調査を実施した。韓国でも適宜調査項目の見直しやアンケートの作成などを行った。

2.事前調査

(1)調査内容の検討

韓国実習に行くにあたって、まず私たちが韓国でどのようなことを調べたいのかについて話し合いを行った。テーマを設定するうえで韓国での調査だけではなく、日本でも調査を行って比較することを前提としていたので、韓国と日本の両方で深く調査を行えるような内容にしたいと考えていた。
しかし、調査テーマと調査目的を決定する作業にはかなりの時間を要した。グループの3人で話し合いをしたが、「韓国でこういったことを調査したい」という具合に明確な目的を持った人がいなかった。そのため、「韓国で何を調査したいか」ということより、「どういったテーマであれば自分たちが調査を行いやすいか」という観点からテーマを決めることにした。様々な案を出し合った結果、私たちはもちろんのこと、韓国でも大学生であれば多少なりとも気にしているであろう就職活動について調査を行うことにした。

(2)調査テーマの検討

前期の授業(文化人類学実習)で韓国実習で取り組む調査テーマについて発表を行うことになったが、最初の発表では調査テーマに加え前提となる情報として日本の就職活動についてプレゼンテーションを行うことにした。
私たちはまず日本の就職活動について調べるにあたって、メンバー同士で就職活動という言葉がもつイメージについて意見を出し合った。すると、「企業説明会」や「採用試験」、「インターンシップ」、「就職率」といったワードが出てきたため、とりあえずそれらについて調査を行うことにした。鹿児島大学のホームページに掲載されている文系・理系別の就職率のデータを基にグラフを作成したり、就職活動に関する文献から主な採用試験の種類を調べ書き出していく作業を行った。結果的には、どちらかというと民間企業に就職する際の情報が多く集まった。なぜなら、インターンシップや企業説明会などは民間企業が主催するものが多かったからだ。そのような経緯もあり、まずは民間企業に就職することを前提とした就職活動を中心に発表することにした。その後も3人で手分けをして作業を行い、最初の調査にしてはそれなりの情報を得ることができた。
しかし、実際の発表では、「とりあえず集められる情報を集めてスライドにまとめた」という内容になってしまった。発表後に先生から、「まずどういった目的で調査をするのか」という質問を受けた。その時、私たちは「何を調査するか」ということにばかり考えが向いていたため、「なぜその調査をするのか」ということをほとんど考えていなかったことに気づいた。やはり、その点が明確でないとこの調査を行う意味がはっきりとしないと考え、早急に目的を決めるべきだと思った。また、文系・理系の差をどのように調査するのかという指摘も受けた。文系と理系では公務員への就職率が異なることに加え、理系は大学院に進む学生も多いため、そこの関連性も考慮しなければならないということであった。これらの指摘を踏まえ、次の発表に向けて引き続き調査を行うことにした。
次の発表では、公務員になるための就職活動に関する発表をするために調査を行った。調査内容は、基本的に民間企業と同じようにインターンシップや説明会、採用試験についてであった。それに加えて、公務員の種類についても調査を行った。公務員に関する調査と並行して、今後どのような見通しを持って調査を行うかについてもグループ内で少し話し合った。
民間企業と公務員についてここまでで調べてきたが、どちらかに絞ってこれから調査を進めていくのか、もしくはどちらともある程度調査を進めていくのかを決めかねていた。片方に絞ればひとつのことを深く調査していけばいいので、現地での調査も比較的楽になる。しかし、事前調査の段階で片方だけに絞ってしまうと現地でデータが思うように取れなかったときに手詰まりになってしまうことが予想されたため、どうするべきかという判断が難しかった。最終的にはこのような問題点も踏まえて発表を行うということになり、先生方の指摘を待つ形となった。
2回目の発表で受けた指摘としては、調査内容については私たちが何をどのようにしたいかで決めるということと、実際に韓国に行った後にどういった手順によって調査を行うのかということをまとめるおくように、ということであったので、それらについて私たちの考えをまとめることにした。また、韓国では、公務員試験のために大学を辞めて塾に通ったり、就職活動を互いに支援するための学生同士の集まり(サークル)があるという話を聞くことができた。これらの公務員になるための塾や就職活動サークルへの調査が行えればより深い調査が行えると考えたので、そちらについてもどういったアプローチをするか話し合うことにした。

△写真1 話し合いの様子

(3)事前調査のまとめ

ここで、これまで調査を行ってきた内容のうち、特に民間企業と公務員を希望する際の就職活動の流れについておおまかにまとめてみたい。また、事前調査の段階で明らかになっていた韓国の就職事情のうち、特に就職難についても述べていく。

(ア)民間企業へ就職を希望する場合

日本の民間企業に就職を希望する場合、一般的には3年生ごろから就職活動を始めることが多い。具体的には、3年生の3月ごろからエントリーシートや履歴書の作成を行い、合同企業説明会や会社説明会への参加し始める。インターンシップの開催時期は各企業によって異なるが、大手・外資・ベンチャー企業に分けると、大手は一年を通して行われており、外資系は夏、ベンチャーは一年を通して行われている(表1)。

採用試験の形式としては、面接と採用テストがある。採用テストには、国語や数学などの問題が出題される能力テスト、職務適性や就労意欲が診断される性格テストなどがある。また、採用テストには、自宅で受けるWEBテストと会場へ受けに行くテストセンターがある。一般的に有名な採用テストとしてはSPIがある。 次に面接について述べる。一次面接には、面接担当者(2〜3人)に対し学生3~5人で行われる集団面接が行われ、二次面接から最終面接にかけては個人面接が行われるケースが多い。面接の他の形態としては、5~8人で一つのテーマについて討論するグループディスカッションもある。
ここで、エントリーシートと履歴書の違いについて触れておく。エントリーシートは本人の人柄を反映させて書くものであり、履歴書はどのような資格を持ち、どのような実績があるかなどを書くものである。エントリーシートの具体的な内容としては、学生時代にどのようなことに力を入れたかやこれから何をして社会に貢献したいかなどがあげられる。

(イ)公務員を希望する場合

日本の公務員には、国家公務員と地方公務員の2種類がある。この2つの中でも地方公務員は全体の約8割を占めている。主な公務員の仕事の種類としては、次の5つがある。
・事務職…官公庁固有の事務・総務的な仕事を担う。要するに、専門的な技術や資格を必要とする仕事以外を行う。
・技術職…事務職の手のおよばない専門的な仕事を担う。
・専門職…それぞれの分野の専門技術を用いて特殊な仕事を担う。
     具体的には家畜検疫官・航空管制官・植物防疫官などがある。
・公安職…警察や消防などの職種である。ほとんどが地方公務員であるが、刑務官や検察庁職員などは国家公務員となる。
・資格免許職…採用時に国家資格取得済み、または国家資格取得見込みであることが条件である。具体例には公立学校の教師、看護師、助産師などがある。なお、外交や国防、裁判員は国家公務員のみである。

説明会では、一般的な業務に関する説明会が行われるほか、テーマ別のディスカッションなどが組み込まれた少人数型説明会がある。開催時期としては、前者は秋季・冬季・春季、後者は秋季と春季~夏季の試験直前に行われる。また、開催規模も学校などで行うケースから官公庁の会議室で行われるものまで様々である(表2)。

(ウ)採用試験

採用試験については、基本的に各自治体ごと年1回のペースで行われている。また、道・府・県、および政令指定都市は一次試験が同じ日に実施される。試験を受ける際には、試験日さえ重ならなければ、複数の自治体を受験することも可能である。逆に、併願せずに志望先をひとつにしている人の方が少数だそうだ。例えば、地方上級を受験する者は、他に国家公務員試験や市役所上級試験などを併願している。ただし、すでに述べたように道・府・県や政令指定都市の一次試験日が同一であるため、それらを併願することはできない。
また、採用試験では、教養試験、専門試験、論文試験、適正検査、面接試験などが課される。教養試験は、すべての自治体の一次試験で実施される。専門試験はほとんどの自治体で実施されるが、一部の自治体では「記述式」試験が行われる。教養試験も専門試験も一次試験として実施されることが多く、一定以上の得点をとらなければ二次試験に進むことができない。
論文試験は、二次試験において行われることが多い。論文試験では、社会問題などの一般的な課題について論述する。また、面接試験も二次試験で行われる(三次試験として行う自治体もある)。面接試験では、個別面接のほか、集団面接や集団討論を実施する。数は少ないが、自己アピール面接やプレゼンテーション形式の面接を行うところもある。最終的に合格するためにはこの面接試験がカギになることが多いという。

(エ)韓国の就職難について

ここでは事前調査の段階でわかっていた、韓国の就職難について述べていきたい。 すでにメディアでも取り上げられているように、韓国の若者は「入試地獄」と表現されるほど激しい大学受験を経験する。このような受験戦争が進む大きな原因として、高学歴が後の就職に大きく関連していることが挙げられる。実際にこれまでの韓国では、学歴が高ければ将来はある程度約束されていたのである。しかし、今日の韓国社会では、大学を卒業しても正規雇用ではなく、非正規雇用として低賃金で働く生活をせざるを得ない若者たちが生まれている。
また、こういった若者のうち、男性は「通過儀礼」ともいえる兵役にも就かなければならない。韓国人の男性は、19歳~29歳の間に約2年間の兵役につく義務がある。大学生の場合、一般的には大学を休学してから軍隊へ入隊し、兵役終了後に復学というパターンが多い。そのため、学業をするにしても、就職活動をするにしても影響が出てくることが予想される。
他にも、韓国の経済状況も若者に影響している。韓国では、1990年代後半のIMF危機や2008年のグローバル金融危機などの経済危機が起きており、それに伴い企業は新規採用の規模縮小を行い、結果的にこれが大学新卒者の失業率の増加に影響を及ぼしているのである。
このように、今日の韓国における就職難は、高学歴化に見合わない雇用状況、避けては通れない兵役義務、経済危機によって引き起こされた雇用悪化など、様々な問題が絡んでいるのである。

(オ)調査内容を振り返って

以上述べてきたように、前期の間に主に日本の公務員や民間企業における就職事情について調査を行ってきた。そのおかげもあってか、自分たちが保持している就職活動に関するデータがそれなりの量になってきた。これらのデータは、後々の話ではあるが、韓国で調査を行ったときに調査内容の選択肢の幅を大きく広げた。
韓国に行った時にどのような調査を行うかについて3人で話し合うなかで、ひとつの選択をしなければならなかった。それは、文系・理系のどちらかに絞って調査を行うかということである。話し合いの結果、調査対象を文系に絞ることにした。その理由は、文系と理系では公務員への就職率が異なる(文系のほうが公務員への就職率が高い)ことや、理系学生の大学院進学率が高いことも挙げられる。また、何より私たち自身が文系学部に在籍しているため、私たちが近い将来直面するような状況を深く理解することが大切ではないかという考えもあった。また、「日本の学生」という大きな枠組みではなく鹿児島大学の学生と、調査先である韓国の全北大学の学生のケースを比較することにした。このような枠組みとなった理由としては、これまでの調査で集められたデータが鹿児島大学のものがほとんどであったことが起因している。
韓国で行う調査の内容としては、学生が公務員・民間企業に就職を希望する際にどのような就職活動を行っているかということや就職率等をベースとして行うことにした。それを踏まえて、鹿児島大学でいうところの就職支援センターや、韓国の就職活動サークルにインタビューを行おうと考えた。また、学生に向けての調査を行うために就職活動に関するアンケートを作成しようということになった。3人とも韓国語に関する知識が皆無だったため、日本語版と英語版を作成することになった。アンケートに盛り込んだ質問項目は、以下のとおりである。

   

・公務員志望か、あるいは民間企業への就職を希望するか(そしてその理由)
・いつ頃から就職を意識し始めたか。
・就職に向けていつ頃から準備を始めたか。
・企業を選ぶ場合には、どのような企業を選ぶのか。

韓国での調査計画に関する発表を終えると、韓国での調査が近くなってきていることを感じた。発表による先生方からの調査内容の修正・指摘というのは前期の授業の中でも、数えるほどしか行えなかった。そのため、グループでの調査内容の再検討と調整を韓国実習までの夏季休暇期間で行うこととなった。

(4)夏季休暇中の韓国実習へむけての調整

韓国実習が8月25日からであったので、それまでの夏季休業中は一週間ごとに集まり、韓国での調査に向けて調査内容の確認と、各々が準備するものについての話し合いをした。調査内容の確認は、先述したような事前調査の内容を再度まとめなおしたり、調査の担当を割り振ったりといったようなことであった。準備についての話し合いは、海外で使えるWi-Fiルーターの担当者を決めたり、調査内容をメモするためのノートの選定などというように、韓国で調査をするうえで必要なものについてお互いに情報を共有していった。前期の発表が終了した後も3人で集まって話し合いを行うことができたため、韓国実習までブランクがなくスムーズな形で事を運べたように思う。