PROGRAM-4

海外調査実習授業を通じた国際交流モデルの構築について

まとめと課題

最後に、本校で論じた論点のまとめと今後の課題について触れたい。本実習の目的としては、学部卒業時に必要とされている社会調査設計と実行に関する技術的修得と、日韓の同年代に属する学生が共同して社会調査を実施することを通じた、国際交流および信頼関係の醸成という2点が設定されている。この2つの目的を軸として、前期の事前学習、会期集中講義の韓国実習、および後期の事後学習およびホスト側としての鹿児島実習が配置されている。
事前学習のポイントとしては、実習参加学生のリサーチクエッションを明確化させることで、実習の現地で引率教員が解説や具体的な解決方法を示すことを回避できると同時に、現地実習のグループ活動が完全に失敗することも防止でき、さらに両国の学生同士のコミュニケーションも容易になる効果が期待できる。
一方、事後学習のポイントとしては、実習を通じた学生の技術的な伸びの確認と、今後の調査設計において必要なリサーチクエッションの修正に向けた動機づけとしての課題の確認である。事後学習は、海外研修が単なる一過性の経験で終わらないために重要なプロセスである。
国際交流のモデルとしては、学生同士が自主的に交流できる機会を確保するためにチーム活動が有効であり、学生が日常的にコミュニケーションに利用しているツールであるSNSなどを活用させ、非対面状況での交流も促すと効果的である。
学生の報告書を読む限り、チーム活動のテーマとしては、異文化経験や国際交流と調査が完全に分離していないケースが成功しやすい傾向があるように思われる。学生の調査データ収集という意味で、頻繁かつ詳細にメモを取らせる動機付けは重要であるが、メモの交換や写真・動画の交換は、コミュニケーションおよびその先にあるディスカッションの材料としても有効である。また学生同士の自主的なミーティングの時間を確保できるよう、自由時間を確保しておくことも必要であろうと思われる。

一方、短期海外研修としての課題であるが、その最大のものは異文化経験という実習の根幹にかかわる部分と関連する。異文化への気づきは同時に自分化認識のプロセスであり、文化人類学的立場としてはその先に自文化の相対化、つまり自文化を基準として異文化を評価すること(=自文化中心主義)の問題性を認識することが望ましいのであるが、現実問題として参加学生全てが自文化の相対化に成功できるわけではない。
この要因としては時間的な短さと学生自身の個性という2つが想定されるが、いずれにせよ、異文化経験が既存の先入観(例:「韓国の現状は10年前の日本である」といった俗説的理解)の強化といったネガティブな効果を持つ懸念がある。異文化経験に関わる問題は、事前学習を調査設計中心に切り替え、事前に教員が介入する場面が増えたため多少緩和されたという韻書を持ってはいるが、本実習のみで解決することは困難であると思われるため、別カリキュラム(講義や演習)による克服の可能性を模索する必要があろう。 一方、第3期における実習での経験が3-4年次でのスキル向上にどの程度まで効果的かという検証作業は今後の課題となっている。また、2016-17年度では学生への事前学習における要求事項が、調査設計という観点からすれば高度となり、その効果として実習での成果は向上した一方で、事前学習・事後学習の段階も含めてドロップアウトする学生が出現する状況が発生している。ドロップアウトの要因としては、実習における要求レベルが近年変更されたため、上級生の評判を判断材料として参加した学生がギャップを感じたことや、そもそもフィールド系(文化人類学、地理学、考古学)ゼミに所属する学生はカリキュラム上、実習が必修となっているため履修している側面があり、海外研修へのモチベーションの高くない学生も含まれている可能性は否定できない。
後者に関しては、鹿児島大学法文学部の改組に伴い2017年度入学生より実習は必修ではなくなっているため、彼らが2年生に進級する2018年度以降、自動的に解消される可能性が高い。ただしそれは、必然的に受講者数の減少を伴うことが想像されるため、今後はミスマッチングによるドロップアウトを防ぎ、同時に受講者数を確保するために、学年開始時に学生へ到達レベルのイメージや要求される活動の具体像が届けられるような手段を現在以上に拡大する必要があるだろう。なお、本ウェブサイトも、こうした手段の一つとして位置付けている。

参考文献
子島進・藤原孝章(編) 2017 『大学における海外体験学習への挑戦』ナカニシヤ出版